エアバッグ市場で世界第2位のシェアを誇るタカタは、2004年の自社検査でエアバッグに欠陥があることを把握していたとされる。だが、経営サイドは検査結果を破棄するように技術者に指示。しかもエアバッグを搭載する自動車メーカーに欠陥の事実を通告したのは数年後のことだった。こうした事実は米メディアがすでに報じている。
エアバッグが作動して膨らんだ時に金属片が飛び散る危険性があり、米国内ではこれまで最低4件の死亡事故が起きている。2008年以降、世界中でリコール対象車は約1700万台に及び、この数字は今後2000万台に達する可能性もある。
だが12月初旬時点で、タカタは全米規模でのリコールを実施していない。米高速道路交通安全局(NHTSA)は強制リコールを求めているが、タカタ側は「全米でリコールをするデータの裏づけがない」と反発している。
米国の訴訟文化を踏まえて、タカタがこれから直面すると思われる厳しい現実を記したい。実は、タカタ(ホンダ、トヨタなどの完成車メーカーも含まれる)は米消費者から何件もの訴訟を起こされている。先月7日も消費者8人が、前述したエアバッグの検査結果の隠蔽問題で、カリフォルニア州の連邦地裁に訴状を提出している。
今月初旬までに、全米で少なくとも55件の集団訴訟が発起されている。訴えた側が勝訴し、裁判所が懲罰的な判決を下すと、企業は数百億円から数千億円単位の損害賠償の支払いを命じられることがある。まさしくタカタがこれから目の当たりにするであろうシナリオだ。これが米国司法界の特質である。弁護士サイドからすると、タカタのエアバッグ問題は「カネのなる木」なのである。
相手は世界第2位のエアバッグメーカーである。売上は連結で4155億円(13年3月期)。総資産は3857億円で、世界中に約3万8000人の従業員がいる東証1部の大企業だ。しかもタカタのエアバッグを使用しているメーカーは米国市場ではホンダの約840万台、トヨタの約87万台、次いで日産の約70万台と、自動車メーカーも巻き込んだ訴訟に発展する公算が強い。悪意のある見方をすれば、弁護士としてこれほど「胸躍る訴訟」はないのである。
結果論だが、10年前に欠陥が見つかった時点でタカタがリコールに動いていれば、ここまで深刻な事態には陥らなかっただろう。日本の経済産業省は現在まで、タカタの財政的な救済措置は考えていないようだが、最悪のシナリオはもちろん倒産である。
当たり前だが、どの人間もミスを犯す。企業行動にもミスはつきものである。問題はミスが起きたとき、企業がどういう行動を取るかで企業の本質的な資質が試される。つまり企業の命運が決まるのだ。特に今回のように、死傷者が出るまで問題の解決に当たれなかったことは、遅きに失している。
タカタはかつてニューヨーク市検事だった弁護士アンドリュー・レバンダー氏を起用し、集団訴訟を迎え撃つための弁護士チームを編成した。しかし、有能な弁護士チームを編成したとしても、損害賠償はたぶん逃れられないだろう。民事による損害賠償訴訟だけではない。死傷者が出たことで、今後、ほぼ間違いなく刑事訴訟も起こされる。企業幹部が実刑を言い渡される可能性も捨てきれない。
エアバッグ問題が米国を含めた全世界に波及している限り、タカタが本当の試練を迎えるのはこれからだ。考えられるプラス要因は、米国でビジネスを行う企業にとっての教訓を提示したことくらいである。米国で商取引をする企業は、多くの弁護士が手ぐすね引いて待っているということを知らなくてはいけない。