今日は、日経から以下のコラムを抜粋して紹介します。
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日米同盟を重んじるカミソリ型のリーダー。辞任が決まったヘーゲル国防長官の後任として、今月5日、オバマ大統領が指名したアシュトン・カーター氏(60)。彼の実像をひと言でいえば、こうなるだろう。
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日米同盟を重んじるカミソリ型のリーダー。辞任が決まったヘーゲル国防長官の後任として、今月5日、オバマ大統領が指名したアシュトン・カーター氏(60)。彼の実像をひと言でいえば、こうなるだろう。
カーター氏の就任には米議会の承認が必要だが、大きな障害はないとみられる。なぜなら、彼の経歴は、次期長官として申し分ないからだ。頭の良さも折り紙つきだ。エール大、オックスフォード大といった名門校で物理学などを専攻し、学士号、博士号を取得。ハーバード大の教授となり、安全保障政策を教えた。クリントン政権当時にも国防次官補を務めている。
ちょっと気がかりなのは、その性格だ。頭のよい人にありがちな自信家とみられ、周囲とうまく折り合えるかどうかが、まず課題になる。「頭の回転が速い分、相手を議論で打ち負かそうとする」。以前にハーバード大を取材した際、こんな評判を耳にしたことがある。
米メディアが伝える人物評も似たり寄ったりだ。「頭脳はシャープだが、我慢強いとはいえない」(ニューヨーク・タイムズ紙)「会議で、自分の意見を主張するのを恐れない人物」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
いわば、長所と短所は裏表というわけだ。では、そんなカミソリ型の国防長官が登場した場合、日本にはどんな影響が及ぶのか。結論からいえば、カーター氏の抜擢は日米同盟にとって悪い選択肢ではなさそうだ。
実は、こんな秘話がある。民主党の野田政権当時、日本は安保協力の土台となる日米防衛協力のための指針(ガイドライン)の改定を、オバマ政権に打診した。緊張するアジア情勢をにらみ、両国の連携を強めるためだった。
ところが、当初、米側の反応はいまひとつだった。ガイドライン改定は膨大な作業をともなうため、国防総省や国務省からは「日本側はどこまで本気なのか」との声も聞かれた。内情を知る日米外交筋によると、この空気を変えた“立役者”の一人が、カーター国防副長官(当時)だった。中国軍の増強や北朝鮮の核・ミサイル開発などに対応するには、日米協力を密にする必要がある。カーター氏はこう判断し、ガイドライン改定に向けて、米政権内の地ならしに動いたという。
ここからうかがえるのは、カーター氏がアジアの安保情勢に厳しい認識をもつ、冷徹なリアリストであるということだ。2006年に北朝鮮が長距離弾道ミサイルを実験した際には、政権外にいたカーター氏は北朝鮮への空爆を主張した。それだけに、彼は日米同盟を強める必要性を強く感じているとみられる。
ただ、国防長官になれば、アジアだけに精力を割くわけにはいかない。真っ先に直面しなければならないのは、アジアの危機ではなく、中東やアフガニスタンの戦争だからである。これらの戦いに忙殺されれば、結局、アジア方面にはあまり目配りできなくなる危険もある。その意味でも、中東情勢の行方を日本は注視する必要がある。